皆さん、ひげ博士じゃ。マクロファージは異物を処理して健康を維持する細胞なのはご存知のとおりじゃ。また、環境に適応して性格を変えることができることも特徴の一つじゃ。この性格を変えることが、裏目にでてマクロファージが異物処理の働きができないことがある。その一つが癌じゃ。癌は大きくなるとはじめは血管が無いため低酸素状態になる。この環境では、マクロファージは異物処理よりも、組織修復機能が大きくなり、炎症抑制や新生血管を誘導するようになる。そのため、癌は生存しやすくなるのじゃ。このように腫瘍の周辺あるいは腫瘍内に存在するマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(TAM)と呼ばれており、癌の悪性度と関連していると考えられておる。
一方で、癌の組織にマクロファージがいるのだから、刺激を与えて異物排除機能を呼びさませれば、癌を退縮することができると考えられる。これは『TAMの再教育』という考え方で、2008年に発表された(1)。近年、さらに研究が進み、2021年の論文(2)では、作用を弱めたLPS (モノフォスフォリルlipid A: MPLA)とインターフェロン-を卵巣癌マウスモデルに注射すると免疫抑制的だったTAMが抗腫瘍効果を持つようになり、細胞傷害性T細胞誘導し、肺転移を抑制することが見いだされたのじゃ。
LPSがTAM再教育に有用なことが示されたわけじゃが、弱いLPSでも、注射では副作用のリスクが避けられない。だから、安全・安心なLPS経口摂取でTAMが再教育できれば、大変心強い。早くこれが明らかにされることを期待しておるのじゃ。
(1) J Exp Med. 2008 205: 1261-8 (2008). "Re-educating" tumor-associated macrophages by targeting NF-kappaB.
(2) Cancer Cell 39: 1361-1374 (2021). Activating a collaborative innate-adaptive immune response to control metastasis.
出典:特定非営利活動法人自然免疫ネットワーク発行ニュースレター