特定非営利活動法人 環瀬戸内自然免疫ネットワーク(LSIN)

マクロファージと糖脂質(LPS)の最新の話題

第13回
脳のマイクログリアの恒常性を維持するためには複数種類の腸内細菌が必要である
(2016年6月 No.35より)

マイクログリアは脳に存在する組織マクロファージで、近年その働きに大きな注目が集まっている組織マクロファージの一つです。マイクログリアが他の組織マクロファージと比べて細胞学的に特徴的なのはその起源が胎児期の卵黄嚢にあることや、その人の一生に渡るとされる極めて長い寿命を持ち、自分で分裂分化してマイクログリアを産生するステム細胞の機能も持っていることです。マイクログリアの機能は多岐に及び、脳内に侵入した病原体の処理や死細胞の処理は勿論の事、最近は脳の発達やシナプスの形成にも重要な働きをしていると報告されています。

一方、近年、腸内細菌が恒常性を維持する上で重要な機能を持つことが次々に明らかにされ、第二の脳と呼ばれる腸管は消化吸収を越えて、恒常性を維持する上で重要な生物学的意義を担うとも考えられます。ところで、マイクログリアは脳内に局在しており、腸内細菌は主として大腸に局在していますから、マイクログリアが生理的に正常な状態を保つ上で、腸内細菌がいかなる役割をはたしているかは良く分かっていませんでした。この点について、

Dnaiel Erny et.al
Nature Neroscience,Volume18 2015:965-977

において腸内細菌がマイクログリアの生理機能を支えるとの報告をしています。腸内細菌が無い状況でマウスを飼育すると、マイクログリアの生理的な活性は腸内細菌があるマウスに比べて著しく低下することが認められました。この生理的な活性の低下は可逆的で腸内細菌を移植することによってもとの状態に戻すことができます。著者らは、具体的にどの腸内細菌がマイクログリアの恒常性の維持に必要かを調べるべく、無菌マウスの腸内に3種類の細菌を移植してみました。移植した細菌はバクテロイデス、乳酸菌、クロストリジウムです。しかし、この3種類の細菌だけではマイクログリアの生理活性は回復しませんでした。この結果から、マイクログリアの生理的活性を正常に維持するためには、多種類(SPFと言われているマウスにも400~1000種類の腸内細菌が生存していることが知られています。)の腸内細菌が常に存在する事が必要であると著者らは述べています。

直接接点がない腸内細菌とマイクログリアがどのようにして情報をやりとりするかに関しては極めて興味深い問題で、今後の研究が待たれます。同様にLPSの経口・経皮投与でも随分離れた場所で効果が発現するケースが多く認められます。本報告は生物個体の情報伝達にはまだ未解明の部分があり、その情報伝達が生命活動にとって極めて重要であることをも示唆する内容になっています。

 

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター