特定非営利活動法人 環瀬戸内自然免疫ネットワーク(LSIN)

マクロファージと糖脂質(LPS)の最新の話題

第2回
薬剤耐性クロストリディウム感染症の治療に糞便移植が威力
(2013年9月 No.24より)

近年、薬剤耐性菌による院内感染が深刻な問題になっていますが、よく知られているMRSA(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌)のほか、最近では、クロストリディウム・ディフィシャル(CD: Clostridium difficile)感染症が高齢者で目立っています。

CDは、嫌気性の腸内細菌で普段はおとなしい菌ですが、抗生物質投与で腸内の正常細菌叢が破壊された時に、薬剤耐性を獲得して異常増殖し、このため激しい下痢を伴う重篤な腸炎を招き、腸管穿孔から死に至ることもあります。CD感染症には、通常、メトロニダゾールやバンコマイシンの投与が行われ、2012年にはアステラス製薬からフィダキソマイシン薬が発売されましたが、治療効果は高くありません。

このCD感染に対し、ある治療法が脚光を浴びています。それは、健常な腸内細菌叢を保持している健康人の糞便を患者の十二指腸に注入するというもので、糞便移植(FMT: fecal microbiota transplantation)と呼ばれます。

この治療法は、欧米ではかなり前から医師主導で数多くの臨床試験が実施されてきましたが、オランダ・アムステルダム大学のグループは糞便移植の治療効率をバンコマイシン投与と比較する研究を行ない、その結果が学術雑誌に報告されました(N Eng J Med, 368: 407-415, 2013)。この研究では、十分な抗生物質治療をうけたにも係らずCD感染を再発した患者に対しバンコマイシン投与または糞便移植を行いました。その結果、バンコマイシン投与の治療効率が31%にとどまったのに対し、糞便移植を行った場合の治療効率は94%に達し、健常人の糞便移植がCD感染症に対し極めて有効であることが明らかになりました。

このように、手ごわいCD感染症に対し、画期的な治療法である糞便移植ですが、現在では、消化器疾患では特発性便秘、炎症性腸疾患、クローン病、過敏性腸症候群、消化器疾患以外では自閉症、慢性疲労症候群、糖尿病、パーキンソン病など様々な疾患への適用可能性を探る動きがあります。また、生の糞便ではなく、糞便代替混合物(複数種の細菌混合物)を使う試みなども検討されています。

この糞便移植の効果は、本年6月22日に開催された第22回内毒素・LPS研究会でも慶応大学・医学部の金井隆典先生の講演でも取り上げられましたが、私たちの腸内細菌叢がいかに重要であるかを如実に語るものです。私たちと体と腸内細菌や環境中の細菌の相互作用については、まだまだ研究の余地がありそうです。

 

出典:特定非営利活動法人環瀬戸内自然免疫ネットワーク発行ニュースレター